先月、お茶を通じて知り合った京都の友人と、寺町通りの蓬莱堂茶舗さんに伺いました。
無知な私に、わかりやすく丁寧に、清水焼きのことや「ひね」「煎がきく」などの言葉を教えてくださった、尊敬するご主人のお店です。
京都の友人は以前、老舗のお茶屋さんで働いていました。
私はお客として通っていたのですが、彼女のしなやかなお点前が大好きで、それが縁でお友達になりました。
これからも茶業に携わっていきたいという友人に、ぜひ蓬莱堂茶舗さんのご主人を紹介したいと思い立ち、突然伺ったのです。
お店はいつもお忙しそうなので、ご主人のお顔を拝見したらすぐに辞するつもりでいたのですが、お声がけすると、まぁ座ってお茶でもと言って迎えてくださいました。
「まずは一煎目」
そう言って、まるでお猪口ほど小さく滑らかな肌をした湯呑みで、それはそれは美味しい黄金色の茶を出してくださいました。
「いわゆる現代の喫茶とは違って、喫するというのは、こういうことだと思います。ほんの数滴の茶をいただくということ。」
そして、夏目漱石は『草枕』で、茶は滴で味わうのが良いと記していると教えてくださいました。教養足りず『草枕』を読んだことのない私は、興味津々でそのお話に聞き入っていました。
「では、二煎目」
お話のちょうど折り目に、茶が届きます。京都の茶業に身を置き、これからもその道を望む友人に、茶業にまつわる様々なトピックをお話くださいました。おそらく私が連れてきた友人を、もてなしてくださっているのだと気づきました。
気がつくと一時間ほども、ご主人を占有してしまいました。私たちは慌てて立ち上がり、帰ろうとした時、
「これ、差し上げます」
と、非売品の手ぬぐいをお土産に持たせてくださいました。
その手ぬぐいには、『草枕』の茶の滴の一節が記されていました。なんて粋な! 突然伺ったにもかかわらず。。。
もてなし方もお話も、本当に勉強になりました。
時折、美味しい茶の滴を舌に落としながら、『草枕』を思い出し、またご主人にお会いしたいなぁと思っています。